邪歯羽尾ッ駆

あぶりぐれきたりて ぬらたかなるとなげら
前後普角に転し錐しけり
いともかよわれなりしはぼろぐろげら
えでたるとんじらほしゃずりけり

邪歯羽尾ッ駆にゃ気をつけるんだぞ、わが息子!
牙むき出して噛みつくぞ、爪むき出して襲いくるぞ!
邪舞邪舞鳥にゃ気をつけるんだぞ、それからよいな
たけむりくるう蛮駄栖那ッ致にゃ近づくな!

息子はまきれもなぎな剣を手に
蕩島たる敵をながらく尋ぬ――
かくて憩いたるはボロロン樹の蔭
しばし佇みて思いに沈みぬ

そしてむかっぽい思いに沈みつつ佇むとき
かの邪歯羽尾ッ駆、燃ゆる眼輝かせ
ぐらぎ森中よりじゃぞじゃぞっと現れ
そして罵ぶりに罵ぶりたり!

えいッ、おーッ! えいッ、おーッ! ぐさり、またぐさり
まきれもなぎな刃の切れ味まぎれなし!
屍打棄り、その首かかえ
息子は意気ぱかぱかと家にぞ帰りし

するとおまえが邪歯羽尾ッ駆を退治したとな?
でかしたぞ、輝みらしきわが息子!
ああ、天晴なるぞ! まごとじゃぞ! めごとじゃぞ!
ねごとく笑う歓喜のその声

あぶりぐれきたりて ぬらたかなるとなげら
前後普角に転し錐しけり
いともかよわれなりしはぼろぐろげら
えでたるとんじらほしゃずりけり


ルイス・キャロル著 柳瀬尚紀訳

「鏡の国のアリス」より抜粋